[i][書評] 「気持ちが楽になる働き方」はノウハウ本ではない。覚悟の書である。

「気持ちが楽になる働き方」を読了したので、感想を書かせて頂きます。

わたしの中では、著者の滝川徹さんは昔使用していたハンドルネーム「(いつでも」スタオバ」さんなので、本記事でもスタオバさんとさせて頂きます。

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記事の要約

本書を購入した理由

わたしがスタオバさんを知ったきっかけは、下記のTasckChuteというタスク管理ツールのサイトです。

ユーザーレポートのおすすめ記事一覧 | TaskChute.Net

その後、スタオバさんのブログを拝見し、毎日タスク管理の記事を更新されていたことに感銘を受け、ブログ購読を続けていました。

スタオバさんとは実際の面識も、交流さえもないのですが、「タスク管理の人であるスタオバさんが書かれた本だから、わたしのタスク管理を進化させる有益な情報があるだろう」と思い、発売日に本書を購入しました。

半分まで読み終わった時点、ガッカリする

本書には、スタオバさんが入社してから現在までの様子が1年ごとの時系列順に書かれています。

本書の半分までは、平たく言えば「意識高い系残念人間が組織で孤軍奮闘する物語」です。

「たしかに自分も資格試験のために勉強していた時期があったなぁ。実際の仕事上では大して役に立たないのにねぇ。」と自分に照らし合わせながら前半部を読み進めていたのですが、いかんせん長い。

スタオバさんは、もうずーっと出口の見えないトンネルをさまよっています。「なんでそんなに本を読んでるのに、そのことに気付かないんだよ。。」と、こちらがヤキモキしてくるレベルです。

しかも副題に「33歳 現役の大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。」とあるように、スタオバさんは大企業に勤められているので、入社から4年間同じ職種で異動なし、その後、転勤を何回かされますが、仕事内容は変わらないという安定した労働環境にいらっしゃいます。毎年異動して職種も変わってきたどこかの誰かさんと違って、毎年仕事のやり方や周囲の人との関係の積み重ねができる比較的恵まれた環境にいらっしゃるのです。

ここでわたしは、気付き始めます。

「この先を読み進めて、『気持ちが楽になる働き方』の具体例が出てきたとしても、それって大企業の中でもさらにスタオバさんのように恵まれた環境にいなければ使えない方法なのでは?」

大企業と中小企業の労働者数の割合は、約3対7です。そして大企業の中でもスタオバさんの会社のように安定した組織運営をよしとする会社もあれば、わたしの会社のように変化に対応するために組織は柔軟であるべきという会社もあります。

そうなると、スタオバさんの方法論を適用できるのは少なくとも全労働人口の3割以下となります。

わたしはタスク管理実践理論家として、万人に有効なタスク管理手法を探求しているので、3割以下の人にしか有効でない方法はわたしにとってあまり意味がありません。

さらに追い打ちをかけたのは、結局わたしが期待していたスタオバさんの具体的なタスク管理手法は本書ではひとつも出てこないことです。

本書はタスク管理の本ではなかったのです。

半分過ぎまで読了時、心屋仁之助さんの考えに共感

そして、なんやかんやで絶望の淵にたたき込まれたスタオバさんは、心屋仁之助さんの本と出会い、心屋さんの著書をすべて読破します。

「ついに来たか。。」

わたしはそう思いました。

スタオバさんのブログを読んでいると心屋仁之助さんの著書が紹介されることがあったので、スタオバさんが心屋仁之助さんの考えが好きだということはわかっていました。

一方、わたしも心屋仁之助さんの著書を何冊か読んだのですが、その考えに同意することはできませんでした。なぜなら、心屋さんの考えは非論理的だから。

スタオバさんは本書の中でこの非論理性にも触れつつ、「頑張らなくていい」という勘違いされがちな心屋さんの考えを、スタオバさんなりの解釈で解説してくれます。

詳しい解説は本書をご覧頂くとして、その解釈はなんと、わたしがタスク管理を探求している理由、「やりたいことをやる」と同じだったのです。

スタオバさんの解説のおかげで、わたしは「意味わからんわー」と敬遠していた心屋さんの考えが少しわかったのです。

ここから、本著に一気に引き込まれました。

心屋さんの考えをインストールしたスタオバさんは、その後、定時に帰るために獅子奮迅し、定時帰りを実現させます。

読了後、魂が震える

しかし、その獅子奮迅により、スタオバさんはいくつかのものを失います。

そしてそれと引き換えに定時帰り&楽になる働き方を手に入れるのです。

わたしも残業拒絶論などを書いてはいますが、まだ残業をしています。

そんなわたしとスタオバさんの違いは何か?

それは「失う覚悟」があるかです。

わたしは今まですべてを手に入れようとしていました。「早く帰ること」も「周りからの評価」も同時に手に入れようとしていたのです。

「周りからの評価」は別に良い評価をもらおうと思っていたわけではなく、最低の評価にならなければいいという程度のものです。しかし、それでも「評価を落とさないこと」を望んでいたことに変わりありません。そのためにタスク管理を研究し、時間内でできるだけ多くの仕事をこなせるように努めてきました。

しかし、タスク管理で1日あたりにできる仕事量を増やしても、仕事量が多すぎればどうしようもありません。どう工夫しても処理しきれない仕事量を抱えている人は、いつか必ず、この段階に到達します。

この段階に来たら、もう何かを失う覚悟をするしかありません。わたしもその覚悟はできていると思っていました。

しかし、そんなものは覚悟とは言えなかった。「わたしが残業しないことにより、わたしの評価が下がっても、わたしはそれを受け入れる」というただの消極的な受け入れでしかなかった。

覚悟とは常に行動が伴うということをスタオバさんは本書でわたしたちに示してくれます。消極的な受け入れではダメなのです。自分から評価を下げる行動を実際に起こさなければ、それは覚悟とは言えないのです。

「覚悟はいいか?オレはできてる」

スタオバさんが自身の体験を通して見せつけてくれる上記のメッセージに、読了後、わたしの魂は震えていました。

気持ちは楽にならない、覚悟を迫られる本

本書のタイトルは「気持ちが楽になる働き方」ですが、読んでも気持ちは楽になりませんでした。

なぜならスタオバさんも本書冒頭で触れていますが、「ヤバい人」にならないと気持ちは楽にはならないからです。これは「悟りを開きたいって?じゅあ、仙人になると良いよ。」と言っているようなものです。

楽になるには、常人は踏み越えない一線を確かに踏み越える必要があります

スタオバさんはこの本の中でその一線を確かに踏み超えました。

どこにでもいるような普通の意識高い系残念人間が、本名を公開し、「絶対残業しない。というか、独立も視野に入れてますから。」と本で公言するという、スタオバさんの勤め先の人事が見たらどのように思うか、常人のわたしは想像するのも恐ろしくなるほどの大ジャンプを見せてくれたのです。

心屋さんの本を読んだとき、わたしは確かに「意味わからんわー」と思いました。今も思ってます。しかし同時に、「こんなテキトーな感じで生きている人がいるんなら、わたしもちょっと手を抜いてもいいかな」と、気持ちが楽になりました。そうやって実際に生きている人が一人でもいることがわかると、「じゃあ自分でもできるかな」という気持ちがわいてくるのです。

本書もこれに似ています。「失うものもがあっても、定時に帰って幸せ」という人が一人いることが分かると、「じゃあ自分でもできるかな」という気持ちがわいてきます。しかし、この気持ちは「楽」ではありません。この気持ちは、「『楽』になるには、スタオバさんと同じ経験をする必要がある」という、「楽」とは逆の気持ちです。

スタオバさんも普通の人だったことがわからないと、この気持ちになることはできません。この気持ちになるために、前半の冗長とも取れる意識高い残念系スタオバさんの記録部分は必須なのです。この部分で十分にスタオバさんの人生を追体験しなければ、スタオバさんが「ヤバい人」になった際のカタルシスは得られません。

スタオバさんはサラリーマンに特化した心屋さんです。心屋さんの本には結果とたとえしか書かれていないので、考えを飲み込みにくいですが、スタオバさんの本著はそのほとんどが過程に割かれているので、飲み込みやすい。

説得力とは抽象的・一般的であればあるほど失われます。スタオバさんの本は、逆にスタオバさん個人の体験という具体性・特殊性であふれているからこそ、説得力があるのです。

本書を半分まで読んだ時にわたしが持った、「これはスタオバさんの環境だからできることであって、他の人には適用できないのでは?」なんて疑問など無意味なのです。

方法論など無数にあります。それこそ本書に登場する吉越浩一郎さんからでも、大橋悦夫さんからでも学べます。

しかし、こんなにも具体的に「定時帰りが普通ではない職場で定時帰りをしようとするサラリーマンの覚悟」を問われる本に、今の今までわたしは出会ったことがありません。

そう、これは覚悟の書。スタオバさんが覚悟し、わたし、そしてアナタにその覚悟があるかを問われる書。

「法定労働時間働いて帰るという当たり前のことをすることに、なぜ覚悟が必要なのか?」

正論です。仰るとおりです。

しかし、わたしたちがそのような状況に置かれているのであれば、覚悟しなければ今のままなのです。ただ状況を嘆いていても何も変わらないのです。

さぁ、わたしには、そしてアナタには、その覚悟がありますか?


P.S.

とは言ってもタスク管理実践理論家としてはスタオバさんのタスク管理術も気になるので、続刊では「定時に帰ってもどうにかなる」という確信を得るに至った、具体的なタスク管理術をとりあげてくれたら嬉しいです。

スタオバさんと同じくわたしも上司に相談し、上司から「仕事をきちんとやれば、いいんじゃないの」と言われても、このままではきちんとやれない状態になり、「きちんとやれないなら残業しろ!」となりますので。。





以上!アイドリングタイムのイド♂(@idomars)でした。


ありがとうございました!

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